RFPが「比較できない回答」を集めてしまう理由
MESのRFPで最も多い失敗は、機能一覧のExcelを配って「対応可否を○△×で回答してください」と依頼する形です。この形式では、回答はほぼ全社が○で返ってきます。標準機能で動くのか、アドオンが要るのか、他社製品との組み合わせなのかが、○という記号に吸収されてしまうからです。
もう一つの典型は、現行業務の説明が「多品種少量生産です」「トレーサビリティを強化したい」という抽象度で終わっているケースです。ベンダー側は自社の標準テンプレートを当てはめるしかなくなり、提案書は各社の製品パンフレットの再構成になります。金額も前提条件がばらばらなまま並び、稟議に使えません。
RFPの品質を決めるのは、要件の網羅性よりも回答様式の設計です。同じ問いに、同じ粒度で、同じ形式で答えさせる。これができていれば、要件が多少荒くても比較はできます。
テンプレートの構成(全12章・記載例38本)
配布しているのは、Word版のRFP本体(A4で47ページ・記載例入り)と、Excel版の回答様式2種です。
| 章 | 章タイトル | 記載例 | この章で決めること |
|---|---|---|---|
| 1 | 提案依頼の目的と背景 | 3 | なぜ今なのか。経営課題との接続 |
| 2 | 会社・工場の概要 | 2 | 拠点数、品目数、工程数、稼働形態 |
| 3 | 現行業務と課題 | 5 | 現状を数字で書く。所要時間・件数・不良率 |
| 4 | 対象範囲(スコープ) | 4 | やること/やらないことの明示 |
| 5 | 機能要件 | 6 | 業務シナリオ形式での提示 |
| 6 | 非機能要件 | 5 | 性能、可用性、保存年限、セキュリティ |
| 7 | システム連携要件 | 4 | ERP・WMS・設備との粒度とタイミング |
| 8 | 導入体制とスケジュール | 3 | 発注側の体制も書く |
| 9 | 回答様式 | 2 | 4段階評価+証跡。自由記述の字数上限 |
| 10 | 費用の記載方法 | 2 | 5年TCOでの提示を義務づける |
| 11 | 契約前提条件 | 1 | データ可搬性、ライセンス移行、再委託 |
| 12 | 選定プロセスと評価基準 | 1 | 配点、デモ、PoCの位置づけ |
記載例から4つ抜粋
1. 第3章:現行業務は「時間と件数」で書く
「実績集計に時間がかかっている」ではなく、「日次の生産実績集計に、各ラインの担当者が1日あたり合計90分、月20営業日で30時間を要している。転記元は紙の日報3種、転記先はExcel 2ファイルとERPの生産実績トランザクション」と書きます。この粒度で書くと、ベンダーは効果試算を自社の想像ではなく貴社の数字で行うようになります。提案間の比較軸も揃います。
2. 第6章:非機能要件は4つの数字を必ず埋める
同時接続端末数、画面応答時間の目標値と測定条件、実績データの保存年限、計画停止を含む稼働時間帯。この4つが空欄のままRFPを出すと、見積もりのインフラ費用が各社ばらばらの前提で積まれます。保存年限は特に効きます。規制対応で10年保持が必要な場合と、3年で外部アーカイブへ逃がす場合とでは、必要なストレージ設計もライセンス体系も変わります。
3. 第9章:○△×をやめて4段階+証跡にする
回答区分を「標準機能で対応/標準機能の設定変更で対応/カスタマイズで対応(工数明記)/対応不可」の4段階に固定し、上位2区分を選んだ場合は画面キャプチャ・マニュアル該当ページ・既存顧客の稼働事例のいずれかを添付必須とします。この一手間で、提案書の記述量は減り、比較の精度は上がります。
4. 第11章:契約前提条件を先に開示する
契約終了時のデータエクスポート形式と費用、永久ライセンスからサブスクリプションへ移行する際の条件、価格改定ルール。これらを契約段階ではなくRFP段階で提示させます。2026年に入ってからMES各社のライセンス体系が階層型サブスクリプションへ移行しており(Proficy 2026、Siemens Opcenterほか)、更新時の条件が選定時点と変わる前提で確認する必要があります。詳しくはMESのデータ可搬性の記事も参照してください。
Word版RFP本体(47ページ・記載例入り)とExcel回答様式をまとめて無料でお送りします。貴社の業種・拠点構成に合わせた章立ての調整もご相談ください。
使い方の推奨手順
- 第4章(スコープ)を先に書く。 機能要件から書き始めると、対象範囲が要件の総和になり肥大化します。「やらないこと」を先に確定させてください
- 第3章を現場に書かせる。 情シスが推測で書いた現状は、ベンダーのヒアリングで必ず崩れます。工程ごとの担当者に、時間と件数を実測させます
- 回答様式(Excel)を先に配る。 本文より先に様式を送り、質問期間中に様式への異論を吸い上げておくと、回答期限直前の様式変更依頼を防げます
- 質問回答は全社に一斉展開する。 個別回答は情報の非対称を生み、比較の前提が崩れます
- 評価配点はRFP発行前に確定し、社内で封をする。 提案を見てから配点を決めると、印象で結論が動きます
要件定義でつまずく論点を先に潰しておくと、第5〜7章の記述精度が上がります。ベンダーへの追加確認は質問リスト62問、提案の評価は選定チェックシート87項目と組み合わせて使う設計になっています。
RFPに書かないほうがよい3つのこと
テンプレートは本当に無料ですか
無料です。ダウンロードにも、その後のご相談にも費用は発生しません。当社製品の購入や、当社を提案依頼先に含めていただく必要もありません。
すでにベンダーが1社に絞られています。それでもRFPは必要ですか
必要です。1社随意の場合でもRFPは有効です。目的が比較から「前提条件の書面化」に変わるだけで、第4章(スコープ)、第6章(非機能要件)、第11章(契約前提条件)はそのまま使えます。むしろ競争がないぶん、条件の書面化を怠るとあとで揉めます。
当社は中小企業で、専任の情シスがいません。47ページも書けますか
全章を埋める必要はありません。テンプレートには章ごとに「小規模導入の場合は省略可」の注記を入れてあります。実際には第3章・第4章・第6章・第9章の4章だけでも、比較可能な回答は集まります。
