定義──ESPRに基づく製品情報の電子パスポート

DPP(Digital Product Passport:デジタルプロダクトパスポート)は、EUのエコデザイン規則ESPR(規則(EU) 2024/1781)を法的根拠として、製品の材料構成・環境属性・製造情報・修理/リサイクル情報などを、QRコード等の識別子を介して電子的に参照可能にすることを義務づける制度です。対象製品グループと具体的要件は個別の委任法令(または電池規則のような独立法)で定められ、各委任法令の採択後に18か月の移行期間が設けられます。適用はバッテリーが先行し、鉄鋼が2026年、繊維・タイヤ・アルミニウムが2027年、家具が2028年、マットレス・ICT製品が2029年という順序が示されています。制度インフラの整備も実装段階に入っており、2026年7月20日にはEUのDPPレジストリが稼働を開始しました。事業者はEU市場に製品を上市する前に登録を行い、レジストリが発行する登録識別子で物理製品とパスポートが紐づきます。

誤解されやすい点──「環境報告」ではなく「製品単位のデータ供給」

DPPはCSRDのような企業単位のサステナビリティ報告と混同されがちですが、性質が異なります。要求されるのは製品(さらにはロット・個体)単位の構造化データであり、年次報告書の作文では対応できません。ここで問題になるのがデータの発生源です。材料ロット、工程パラメータ、品質記録といったDPPの中核データは工場の実行系──つまりMESにしか存在しません。欧州では「DPPはMESの新しい出力仕様」という理解がすでに定着しており、OPC FoundationやCatena-X、IDTAが製造現場からパスポートまでのデータパイプラインの標準化を進めています。もう一つの誤解は「うちはEUに売っていないから無関係」というものです。DPP義務を負うのはEU上市者ですが、そのサプライヤーである日本の部材・部品メーカーには、取引条件としてデータ提供要求が連鎖します。義務の名宛人でなくても実務は発生します。

実務でこの用語が出てきたら確認すべきこと

  • 自社製品の適用時期──直接またはサプライチェーン経由で関わる製品グループはどれか。委任法令の採択から18か月という移行期間を前提に逆算します
  • 要求データと現有データのギャップ──材料構成・ロット追跡・工程情報のうち、現在システムで取れていないものはどれか。紙・Excel管理の区間がそのままDPP対応の穴になります
  • 顧客からの要求形式──欧州顧客がCatena-XやAAS(アセット管理シェル)形式でのデータ提供を指定してくる可能性。個別対応ではなく標準形式で備えるほうが結局安くつきます

深く知る

DPPのデータはどこに保管されますか?

パスポートのデータ自体は事業者側(または委託先)が保持し、EUのレジストリは登録識別子等を管理する構造です。中央データベースに全データを預ける制度ではなく、分散保持+識別子連携が基本設計です。

中小企業にもDPP義務は課されますか?

EU上市者であれば規模を問わず適用されます。サプライヤーの立場では法的義務ではなく取引要求として来るため、対応可否が受注条件になります。データ整備は規模にかかわらず避けられない流れです。