各社は自社を何と呼んでいるか

2025〜2026年の公式発表から、主要ベンダーの自己定義を並べます。いずれも公開されている一次情報またはアナリストの分析からの引用です。

ベンダー使っている表現出どころ・時期
Critical Manufacturing(ASMPT傘下)「実行・コネクティビティ・分析・信頼できるAIを統合した Industrial Operations Platform2026 Gartner Market Guide for MES 掲載時の自社定義(2026年3月25日)
Honeywell Technologies「産業セクターのオートメーションからオートノミー(自律)への移行をリードする」3社分割完了時のCEO Vimal Kapur 氏の発言(2026年6月29日)
Rockwell Automation「AIは Rockwell の産業自律化(industrial autonomy)戦略で決定的な役割を果たす」Plex QMS × FactoryTalk Analytics VisionAI 発表(2026年8月11日)
AVEVA(Schneider Electric傘下)MESを「プラント中心の取引システム」から「CONNECTへデータを供給するデータプラットフォーム構成要素」へ再定義ARC Advisory Group による AVEVA World 2026 分析

注目すべきは、4社が4つとも違う言葉を使っているのに、指している方向が同じという点です。ARC Advisory は AVEVA の動きを「MESが取引システムからデータプラットフォームの提供者へ移行する決定的なシフト」と評しています。AVEVA の MES v8/8.1 は、MESデータモデルの約80%を CONNECT へ発行可能です。

Critical Manufacturing が MES という語を捨てたわけではない点も付記しておきます。同社は 2026 Gartner Market Guide for MES に Representative Vendor として掲載されており、SEMICON Taiwan 2026 では「MESパワードIndustrial Operations Platform」という表現を使っています。つまり、MESは製品カテゴリ名から、プラットフォームの構成要素を説明する修飾語へ降りているわけです。

言い換えは何を意味しているのか

この現象は3つの動きの合流と考えると理解しやすくなります。

1つ目は、スコープの拡大です。 従来のMESは、ISA-95のレベル3──製造オペレーション管理──を守備範囲としてきました。現在ベンダーが売っているものは、そこにデータ統合基盤、分析、AIオーケストレーションが乗った塊です。「MES」という語では、この塊全体を説明できません。

2つ目は、データの流れの向きが変わったことです。 従来のMESは、ERPから指示を受け、設備から実績を集め、ERPへ返す「取引システム」でした。いま各社が強調しているのは、MESが持つデータを外部(データプラットフォーム、データスペース、AI)へ供給する側面です。AVEVA の「80%を CONNECT へ発行」という数字が、それを端的に示しています。

3つ目は、AI層の分離です。 Siemens は「オンプレ大企業向け=Opcenter Execution/SaaS中小向け=Opcenter X/AI層=Intelligence Center X/データ層=HighByte提携」という4層の役割分担を明確化しました。AIをMESの中に詰め込むのではなく、別レイヤーに切り出したという点が2026年の重要な変化です。MESが層のひとつになれば、その層だけを指す語では製品全体を説明できなくなります。

MESという語の位置づけの変化 従来:MESが製品カテゴリ名 ERP MES 製品として売られる単位 制御 / 設備 「MESを買う」で話が通じた 現在:プラットフォームの1層 AIオーケストレーション層 データ基盤 / 統合層 実行層(旧MES) プラットフォームの構成要素として語られる コネクティビティ / 設備 「MESを買う」だけでは範囲が確定しない
ベンダーの語彙が変わった構造。従来の「MES」は、現在の製品構成では真ん中の1層に位置づけ直されている。

アナリストの評価形式も同じ方向を向いている

ベンダー側だけの現象ではありません。Gartner は MES を Magic Quadrant では評価していません。2025年版と2026年版はいずれも Market Guide 形式で、掲載は「Representative Vendor」──象限評価ではなく代表ベンダーの列挙です(2026年3月23日公開、著者:Jake Cunningham、Christian Hestermann)。Magic Quadrant 形式での評価は2023年4月版が最後とされています。

【推測】Gartner が MES の MQ を事実上取り下げた理由は、市場がコンポーザブル化・プラットフォーム化して「単一の製品カテゴリとして象限評価しにくくなった」ためと考えられます。Gartner 自身による明示的な説明は、当サイトの調査では確認できませんでした。この論点は「Gartnerのマジック・クアドラントでリーダー」はもう成立しないという記事で詳述しています。

言い換えれば、ベンダーが自社を「MES」と呼ばなくなった動きと、アナリストが「MES」を単一カテゴリとして評価しなくなった動きは、同じ市場構造の変化を別の側から見たものです。

RFPで「MES」と書くと比較できなくなる

ここからが実務の話です。この言い換えには、発注側にとって具体的な不利益があります。

RFPに「MESの導入を検討している」と書くと、各社が自社の定義でスコープを決めて回答してきます。 A社は実行層だけを見積もり、B社はデータ基盤とAI層を含めた総額を出し、C社は「当社はプラットフォームなので個別機能ではなく全体構成でご提案します」と返してくる。この3つの見積書を横に並べても、価格差が何によるものかわかりません。

さらに厄介なのは、同じ機能が別の層に割り当てられていることです。たとえば「実績データの分析レポート」は、ある製品ではMES本体の機能、別の製品ではデータプラットフォーム側のオプション、また別の製品ではBI製品との連携前提です。機能一覧の○×だけを比べると、この違いが見えません。

「MES」という語がなくならない場所

一方で、この語が今後も残る領域があります。ベンダーのマーケティング語彙とは無関係に、制度側で使われ続けるためです。

規制・標準の文書:ISA-95/IEC 62264 は「Manufacturing Operations Management」という語を使いますが、GMP関連の実務文書やバリデーション計画書では「MES」が定着しています。EU GMP Annex 11 の対象となる「コンピュータ化システム」の一覧に、MESという名称で載っている企業が多数あります。

社内の会計・稟議:システム名は資産台帳と予算科目に残ります。10年前に「MES導入」で稟議を通したシステムは、ベンダーが呼び方を変えても社内では MES です。

採用・人材市場:求人票とスキルセットの記述では「MES経験者」という語が使われ続けます。これは求職者側の検索行動に依存するため、変わるのが最も遅い領域です。

日本語の検索行動:日本語圏の情報流通では、いまも「MES」が中心的な検索語です。ベンダーの英語圏発表と、日本語での商談で使われる語彙の間に、時差が生じています。

したがって、実務上は「社内とRFPでは機能単位で定義し、対外的な呼称としてはMESを使い続ける」という二重運用が現実的です。混乱するのは、ベンダーの提案書に書かれた新しいカテゴリ名を、そのまま社内資料に持ち込んだときです。

提案書を読むときの3つのチェック

新しいカテゴリ名で書かれた提案書を評価するための、具体的な確認手順です。

  1. その名称の定義を、提案書の中で示させる。 「Industrial Operations Platform とは、具体的にどの製品とどのモジュールの組み合わせを指しますか」。定義が提案書内に書かれていない場合、見積範囲も確定していません
  2. 旧来のMES機能が、どこに配置されているかを対応表にさせる。 上のMESAモデルの11機能を左列に置き、右列にその機能を提供する製品・モジュール名を書かせます
  3. 層をまたぐ費用を分離させる。 実行層/データ層/AI層のライセンス費用を別々に出させます。将来、AI層だけを他社製品に替える選択肢を残すためです

3番は、MESとMOMの違いを確認する際の論点とも重なります。層の境界が曖昧な提案は、後年の部分入れ替えを困難にします。

語彙の変化そのものが選定材料になる

最後に、この現象の別の読み方を示します。ベンダーがどの言葉を選んだかは、そのベンダーの戦略の表明です。

  • 「Industrial Operations Platform」と呼ぶベンダーは、製造オペレーション全体を自社で抱える方向を選んでいます
  • 「データプラットフォーム構成要素」と位置づけるベンダーは、MESを供給側に置き、上位のデータ基盤で価値を出す方向です
  • 「オートノミー」「産業自律化」を掲げるベンダーは、人が判断していた部分の置き換えを訴求の中心に据えています

自社が求めているものがどれかによって、相性の良いベンダーは変わります。「うちは実行層だけ確実に動けばよく、分析は既存のBIを使う」という企業が、プラットフォーム全体を訴求するベンダーを選ぶと、使わない機能の費用を払い続けることになります。逆に、データ基盤から作り直したい企業が実行層特化の製品を選ぶと、統合の作業を自社で背負うことになります。

Honeywellの3社分割のような資本構造の変化と合わせて読むと、各社がどの領域で戦おうとしているかがより明確になります。

よくある質問

「MES」という語を社内で使い続けても問題ありませんか?

問題ありません。むしろ、社内の資産台帳・予算科目・バリデーション文書との整合を考えると、名称を変えるほうがコストがかかります。注意すべきはベンダーとの会話です。提案依頼や仕様確認の場面で「MES」とだけ言うと、相手の定義で解釈されます。その場では「当社が言うMESとは、次の機能群を指します」と範囲を明示する運用にしてください。文書では機能単位、口頭ではMESという使い分けで実務は回ります。

MOMという語に置き換えればよいのですか?

MOM(Manufacturing Operations Management)はISA-95が定義する正式な用語で、MESより広い範囲を指します。ただし、MOMに置き換えても「どこまで含むか」の問題は解決しません。ベンダーによってMOMの範囲も違うためです。実務的には、用語をどれに統一するかより、機能の一覧を自社で持っているかどうかが効きます。MESA Internationalの機能モデルでも、自社独自の機能分類でもかまいません。比較の物差しを発注側が持つことが目的です。

ベンダーが呼称を変えたら、製品の中身も変わっているのですか?

一致するとは限りません。当サイトが確認できた範囲では、呼称変更に実体が伴っている例と、そうでない例の両方があります。実体が伴っている例としては、AVEVAがMESデータモデルの約80%をCONNECTへ発行可能にしていること(ARC Advisoryの分析)、Siemensが AI層を Intelligence Center X として別製品に切り出したこと(2026年6月1日発表)が挙げられます。一方で、既存製品の説明文だけを書き換えた例も存在します。確認方法は、その新しいカテゴリ名を裏づける具体的な製品名・リリース時期・機能を挙げさせることです。挙げられない場合、変わったのは説明の仕方だけです。