2027年に来るのは「委任法令」──適用はその先

ESPR(持続可能な製品のためのエコデザイン規則、規則(EU) 2024/1781)は枠組み法であり、製品グループごとの具体的要件は委任法令(Delegated Act)で決まります。2025年4月16日に採択された最初のワーキングプラン(COM(2025) 187)が、2030年までの優先製品を確定させました。

  • 最終製品:繊維(アパレル中心)、家具、タイヤ、マットレス
  • 中間製品:鉄鋼、アルミニウム
  • このほかエネルギー関連製品、修理可能性スコア、電気電子機器のリサイクル要件

委任法令の採択予定は、鉄鋼が2026年、繊維が2027年第4四半期、タイヤ・アルミニウムも2027年です。ESPRは委任法令の適用開始を採択の18か月以上後と定めているため、実際の義務発生は製品グループごとに2028〜2029年ごろになる計算です。

ESPR委任法令の採択予定と適用見込みの時系列 2025 2026 2027 2028 2029〜 ワーキングプラン採択 鉄鋼:委任法令 → 移行期間18か月以上 → 適用 繊維:委任法令 Q4 → 適用は2029年ごろ タイヤ・アルミ:委任法令 → 適用は2029年ごろ
ESPR委任法令のスケジュール。「採択」と「適用」の間に18か月以上の移行期間がある。

「まだ3年ある」と読むのは危険です。委任法令が採択された時点で要件は確定しており、そこからの18か月でMES・基幹システムの改修、サプライヤーからのデータ収集体制、DPP発行の仕組みを立ち上げることになります。DPPレジストリはすでに2026年7月20日に稼働しており、インフラ側は先に整いつつあります。

繊維:DPPに載るデータはすでに輪郭が見えている

欧州委員会は繊維・アパレルDPPの専用ページを設け、検討中のデータ項目を示しています。

  • 製品の識別情報と特性
  • 繊維組成(fibre composition)
  • 使用・修理・メンテナンスを支援する情報
  • 再利用・再販・解体・再生・廃棄に関する情報
  • 原産地情報と経済事業者(製造者・輸入者)の識別情報

ワーキングプランは繊維の改善領域として、耐久性の延長、材料効率、水・廃棄物・排出・エネルギーの削減を挙げています。義務の主対象はEU市場に製品を上市するブランド・輸入者ですが、繊維のサプライチェーンは長く、紡績・織布・染色・縫製の各段階にデータ提出が波及します。日本の素材メーカー・commission加工場も、取引先ブランド経由で「ロット単位の組成・加工履歴・環境負荷データ」を求められるシナリオが現実的です。ロット追跡の基本設計はトレーサビリティ要件の記事を参照してください。繊維業固有のMES論点(多段階の外注、反番管理、色ロット)は繊維業界のMES導入で扱います。

タイヤ・アルミ・鉄鋼:中間製品こそMESの記録が効く

タイヤは摩耗粒子・転がり抵抗など使用段階の環境性能が焦点になるとみられ、型式単位の試験データに加えて製造ロットとの紐づけが論点になります。

注目すべきは中間製品としての鉄鋼(委任法令2026年予定)とアルミニウム(2027年予定)です。中間製品のDPPは、川下の最終製品DPP(自動車、建材、電池など)へのデータ供給源として機能します。つまり鋼材・アルミ材のメーカーは、自社が直接ESPRの義務を負うより先に、バッテリーパスポートや自動車系データスペースの要請で「溶解ロット・鋳造ロット単位の成分・再生材比率・CO2原単位」の提出を求められる可能性があります。溶解炉単位の実績とロット系譜をMESで取れているかどうかが、その時点の対応コストを決めます。

よくある質問

日本国内向けの製品しか作っていなければESPRは無関係ですか?

自社が直接EUへ上市していなくても、取引先がEUへ輸出する場合はサプライチェーン上流としてデータ提出を求められます。特に中間製品(鋼材・アルミ材・生地・部材)は、川下の完成品DPPの構成データとして情報が遡って要求される構造です。顧客の輸出先を含めて該当性を確認する必要があります。

委任法令の採択が遅れる可能性はありますか?

あります。ワーキングプランの日程は予定であり、過去のエコデザイン関連法令でも遅延はありました。ただし、遅れた場合でも「採択から適用まで18か月以上」の構造は変わらないため、採択日を監視していれば対応期間は確保できます。監視すべきは欧州委員会のDPP・ESPR関連ページと官報です。

DPP対応はERPやPLMの仕事で、MESは関係ないのではありませんか?

製品マスタ・設計情報はPLM、取引情報はERPが持ちますが、「このロット・この個体が、いつ・どこで・何から・どう作られたか」という実績データの発生源はMESです。DPPの要求が型式単位で済む製品カテゴリならPLM中心で対応できますが、ロット・個体単位の実績(再生材比率、CO2原単位、品質記録)が要る場合、MESなしには埋まりません。