「全設備をつなぐ」を要件にした瞬間に、プロジェクトは失敗に向かう
古い設備が多い工場のMES導入で最初に決めるべきは、どの設備をつながないかです。1980〜90年代の設備には通信ポート自体がないもの、あってもメーカー独自プロトコルで仕様書が失われているものが混ざります。これらを全数接続する前提で要件を書くと、接続改造費が本体を超え、稟議の段階で頓挫します。
実務の定石は逆で、実績データの取得手段を設備ごとに4段階から選び、費用対効果の低い設備は堂々と手入力に落とすことです。接続技術の詳細は設備接続の現実──古い機械をどうつなぐかで扱っています。本記事は、その前提で「どういうMESを選ぶべきか」に絞ります。
選定条件:接続の引き出しの数と、「なくても回る」設計
| 条件 | 確認する内容 |
|---|---|
| 1. レトロフィット手段の品揃え | 電流センサ・信号灯連携・後付けI/Oなど、設備を改造しない取得手段を自社(またはパートナー)で提供できるか |
| 2. プロトコル対応の幅 | 現行のOPC UAだけでなく、古いPLCのレガシープロトコルへの接続実績が機種名で挙がるか |
| 3. 手入力フォールバック | 自動収集できない設備・故障時に、同じデータモデルへ手入力で実績を入れられるか。入力端末は現場に耐えるか |
| 4. 接続部分だけの部分導入 | MES本体を入れる前に、稼働監視だけ先行導入できるか(効果検証と接続資産の先行整備) |
条件3は軽視されがちですが、古い設備の工場では手入力こそ主役です。自動収集を前提に画面設計された製品は、手入力運用に落とすと途端に使いにくくなります。バーコードやRFIDでの入力簡略化はバーコード・RFID・画像認識の使い分けを参照してください。
候補になる製品タイプの例
後付けセンサで稼働を取る系統。 クリップオン電流センサで設備改造なしに稼働データを取るGuidewheel、セルラー通信のエッジ接続で機械加工現場の稼働を可視化するAmper、工作機械の稼働監視に特化したMachineMetricsや国産のiXacsがこの系統です。MESのフル機能ではなく「まず稼働の見える化」に絞る条件4の入口として使えます。
接続レイヤーが厚いプラットフォーム系統。 SCADA基盤の上にMES機能を載せるIgnitionは、レガシープロトコルを含む接続の引き出しとサーバ単位の無制限ライセンスが特徴で、設備側の多様性が高い工場と相性がよい構成です。エアギャップ環境まで対応するエッジ基盤のLitmus Edgeのように、接続層をMESと分離して先に整備する設計もあります。
どちらの系統でも、接続層とMES層を分けて調達できるかを確認してください。接続層が独立していれば、将来MES本体を入れ替えても接続資産は残ります。
PoCの合否条件は「実機で1台つなぐ」に固定する
古い設備が多い工場では、カタログ上の対応可否がまったく当てになりません。提案段階の「対応可能です」は、正確には「対応できる場合があります」です。したがってPoCの設計は次の一点に集約されます。
自社で最も古い部類の設備を1台指定し、実データが取れるところまでをPoCの合否条件にする。
このとき、①接続にかかった作業日数、②追加で必要になった機器と費用、③取れたデータの粒度、の3点を記録します。この3点が全設備への展開費用の見積もり根拠になります。PoC設計の一般論はMESのPoCで検証すべき3項目を参照してください。
よくある質問
設備が古いなら、MESより先に設備を更新すべきではないですか?
順序を逆にする根拠はありません。むしろ稼働データがない状態では、どの設備から更新すべきかの優先順位が勘で決まります。外付けセンサ等で先に稼働実態を可視化し、そのデータで更新投資の優先順位を決めるほうが、設備投資の精度が上がります。稼働可視化はMESフル導入より一桁安く始められます。
通信仕様書が残っていない設備は、あきらめるしかないですか?
仕様書がなくても、①信号灯・パトライトの点灯状態、②主電源・モーターの電流波形、③シーケンサの空き接点、のいずれかから稼働・停止と概算サイクルは取れます。品質データや工程条件までは取れないため、そこは手入力との併用になります。「何が取れないか」を最初に確定させることが、後の期待値調整として効きます。
実機接続をPoCの合否条件にする際の検証項目・期間・体制のひな形を「MES PoC設計ガイド」として公開しています。
