定義──アプリではなく「スタック全体」の国産化
信創は「信息技术应用创新(情報技術応用イノベーション)」の略で、中国が推進するITシステムの国産化代替政策・産業育成の総称です。米中対立を背景に、政府機関・国有企業・重要情報インフラ(CII)を中心として、外国技術への依存を段階的に排除することを狙います。特徴は、アプリケーション単体ではなく技術スタック全体を対象にすることです。CPU(鯤鵬・海光・飛騰など)、OS(麒麟・統信UOSなど)、データベース(達夢・人大金倉・OceanBaseなど)、ミドルウェアの組み合わせで動作することの認証(適配)が求められ、この上で動かないソフトウェアは調達候補から外れていきます。産業ソフトの国産化率は分野で差があり、2024年時点の民間調査ではERPなど経営管理類が約70%、MES/MOMを含む生産製造類が約60%とされています。
誤解されやすい点──「全中国で外資MES禁止」ではない
信創は一律の外資排除ではありません。強い拘束を受けるのは政府・国有企業・軍需・CII関連で、民営企業や外資系企業の自社工場には直接の法的強制はないのが現状です。ただし実務への波及は静かに進みます。第一に、国有企業と取引するサプライヤーが、取引先から信創対応スタックでのデータ連携や納品を求められるケースがあります。第二に、国産スタック上で動くことを前提にした調達仕様が入札で標準化すると、外資MESは「アプリは優れていても適配認証がないため選定不能」という形で市場から締め出されます。価格面でも国産勢は外資の概ね3分の1の水準とされ(ベンダー系情報のため参考値)、信創の追い風と価格競争力が重なって国産シフトが進んでいます。「品質で選ばれている」とも「政策だけで選ばれている」とも言い切れない、両輪の構造です。
実務でこの用語が出てきたら確認すべきこと
- 自社拠点への適用可能性──取引先に国有企業・政府系はあるか。合弁の場合、中方パートナーの方針として信創対応が求められる可能性はあるか
- 本社標準MESとの衝突──日本本社標準の外資MESを中国拠点に展開する計画なら、将来の信創要求で二重運用(本社標準+現地国産システム)になるリスクを織り込んでおきます
- データアーキテクチャへの影響──信創対応とデータ越境規制への対応は別の要求ですが、実務では同時に来ます。生データを中国域内に置き、集計値のみ本社へ送る二層構造を支持できるかがMES選定の判定基準になります
- 等級保護との関係──信創とは別に、セキュリティ等級保護(等保2.0)でMESは多くの場合2級、重要インフラ関連は3級(年次監査必須)が求められます
深く知る
日系工場は今すぐ信創対応が必要ですか?
多くの場合、今すぐの義務はありません。ただし国有企業向けビジネスの比率が高い拠点では、取引条件として要求される可能性が高まっています。次期システム更新のタイミングで「信創シナリオが来たらどうするか」を選定条件に含めておくのが現実的です。
信創対応の国産MESは品質面で使えるレベルですか?
分野によります。鉄鋼の宝信、プロセス産業の中控・石化盈科のように業種特化で実績を積んだベンダーは実用水準にあります。一方、日系の品質管理慣行や多言語対応への適合は個別評価が必要で、台湾系ベンダーが中間解になる場合もあります。
