定義:機器履歴記録(DHR)を電子的に作成・管理する仕組み
eDHR(Electronic Device History Record/電子機器履歴記録)は、医療機器の個々の製品・ロットが「定められたとおりに製造されたこと」を示す製造履歴記録(DHR)を、電子的に作成・収集・承認・保管する仕組みです。DHRという用語は米国FDAの品質システム規則(21 CFR Part 820、旧QSR)に由来し、製造日・数量・受入から出荷までの記録・識別(ロット/シリアル)・ラベルの記録などが求められてきました。
MESの文脈では、作業実績・部品ロットの紐づけ・検査結果・電子署名を工程で収集し、製品単位の履歴として束ねる機能群を指します。製薬のeBRと対をなす概念です。
誤解されやすい点:QMSR発効で「DHR」は規則用語ではなくなった
FDAは21 CFR Part 820を改正し、ISO 13485:2016を取り込んだQMSR(Quality Management System Regulation)として2026年2月2日に発効させました。現行の条文タイトルは「Quality Management System Regulation」であり、DHR・DMR(機器原簿)といった旧QSR固有の用語は条文から消えています。記録の要求はISO 13485の文書・記録要求(医療機器ファイル、製造記録等)として引き継がれており、「作ったとおりの証拠を残す」という実質は変わりません。
実務への含意は2つです。第一に、eDHRという言葉は今後も業界用語として使われ続けますが、監査・査察ではISO 13485の要求事項に紐づけて説明できることが必要になります。第二に、旧QSR前提で書かれた社内手順書・バリデーション文書は、用語と参照条文の更新が必要です。
| 旧QSR(〜2026年2月) | QMSR(現行) | |
|---|---|---|
| 規則の性格 | FDA独自の品質システム要求 | ISO 13485:2016を法的に取り込み |
| 記録の用語 | DHR・DMR・QSレコード | ISO 13485の記録・文書体系 |
| 実務の変化 | — | 手順書・監査対応の用語更新 |
実務でこの用語が出てきたら確認すべきこと
- 記録の単位。個体(シリアル・UDI)単位か、ロット単位か。クラスの高い機器ほど個体単位の履歴が求められ、MESのデータモデルを最初に決める要因になります
- 電子記録・電子署名の適合。eDHRは21 CFR Part 11の対象であり、監査証跡・署名・アクセス統制の設計とバリデーションが必要です
- 紙図面・作業標準との整合。DHR(履歴)はDMR相当の製造仕様(何を作るべきか)と対で成立します。仕様側の版管理が紙のままだと、電子履歴だけあっても「どの版で作ったか」が曖昧になります
よくある質問
QMSRになってeDHRの投資は無駄になりませんか?
なりません。ISO 13485も製造の証拠となる記録の作成・維持を要求しており、eDHRが担う実務は変わりません。変わるのは参照する条文と用語であり、既存のeDHR運用はISO 13485の要求への適合として説明し直せば維持できます。
