2026年分は超長期特別国債625億元

中国が2024年から進めている「両新」政策(大規模設備更新と消費財の買い替え促進)は、2026年分の実施通知が2025年12月30日に公布されました(『关于2026年实施大规模设备更新和消费品以旧换新政策的通知』発改環資〔2025〕1745号)。超長期特別国債から625億元が配分されています。

すでに出ている成果指標も公表されています。2025年中間時点の数字は次のとおりです。

設備・工器具購入投資の伸び(前年比)
+15.2%
2025年中間時点。中国日報 2025年9月3日
超長期特別国債が支援したプロジェクト数
約8,400件
同上。1兆元超の投資を誘発したとされる
規模以上工業企業のデジタル研究開発設計ツール普及率
85.4%
工信部(2025年中間)
主要工程の数値制御化率
67.7%
同上

注目すべきは、設備投資の統計と、デジタル化の統計が同じ文脈で公表されている点です。中国の政策設計では、設備更新は単なる置き換えではなく、デジタル化・ネットワーク化とセットで語られています。

設備更新がMES需要に転化する4つの経路

補助対象は設備であり、MESそのものが直接の補助対象になるわけではありません。それでも設備更新はMES需要を押し上げます。経路は4つあります。

超長期特別国債から設備更新を経てMES需要が発生する経路図 超長期特別国債 2026年分 625億元 設備更新プロジェクト 約8,400件を支援 新設備の据付 通信仕様が新しくなる ここでしか変えられない4つの条件がMES需要になる ① 接続 新設備は標準I/Fを 持つ。後付け改造の コストが消える ② 工程再編 ライン構成を変える 機会。工程マスタの 作り直しが正当化される ③ 稟議 設備投資の枠に 付帯費用として 乗せやすい ④ 認定要件 智能工厂認定は 設備とシステムの 両方を要求する 出所:発改委(2025年12月30日)/中国日報(2025年9月3日)を元に整理
設備更新政策がMES需要へ転化する経路。補助対象は設備だが、更新のタイミングでしか変えられない条件が複数ある。

このうち実務的に最も重要なのは①の接続です。古い設備をMESにつなぐ場合、外部センサーの後付け、PLCの信号取り出し、専用ゲートウェイの設置といった改造が必要になり、1台あたりの費用が積み上がります。設備を更新する場合、新しい設備はEthernet/IPやOPC UAといった標準的なインタフェースを最初から持っているため、この費用が発生しません。

設備更新のタイミングは、接続コストを構造的に下げられる唯一の機会です。

数値制御化率67.7%をどう読むか

工信部が公表した「主要工程の数値制御化率67.7%」という数字は、規模以上工業企業を対象としたものです。残り3割の主要工程は依然として数値制御化されていないという読み方もできます。

デジタル研究開発設計ツールの普及率85.4%と比べると、設計側のデジタル化のほうが、製造工程のデジタル化より先行していることがわかります。これは日本の工場でもよく見られる構図です。CADは全社に入っているが、現場の実績は紙とExcelで回っている、という状態です。

同時に、中国信通院の『制造业数字化转型发展报告(2025年)』は、規模以上工業企業のデジタル化改造実施比率89.6%、デジタル化設備普及率57.7%という数字を示しています。「改造を実施した」が89.6%なのに、「デジタル化設備の普及率」は57.7%。この差は、改造の定義が緩い可能性を示唆します(推測)。中国側の統計を引用する際は、自己申告に基づく指標であることを踏まえて幅を持って読む必要があります。

日本の補助金制度との構造的な違い

日本にも、ものづくり補助金や省力化投資補助金といった設備投資支援があります。中国の「両新」政策との違いは、金額規模だけではありません。

観点中国の「両新」政策日本の設備投資支援
財源超長期特別国債(2026年分625億元)一般会計・特別会計からの補助事業
配分の単位中央から地方・プロジェクトへ配分事業者からの公募・審査
認定制度との連動智能工厂の等級認定と連動しやすい制度間の連動は限定的
デジタル化との一体性政策文書で設備更新とデジタル化が一体で語られる補助類型ごとに要件が分かれる
実装スケジュールの規定力申請締切が実装の締切として機能する交付決定後の事業期間が締切になる

最大の違いは、認定制度との連動と、実装スケジュールへの規定力です。中国では智能工厂の4段階認定が補助金・融資・入札加点・地方政府のKPIに直結しており、設備更新とシステム導入が同じプロジェクトとして計画されます。日本では設備の補助とシステムの補助が別建てで、申請主体の社内でも担当部署が分かれがちです。

日系企業は中国の設備更新支援を使えるのか

「両新」政策の対象は中国国内で操業する事業者であり、公布された通知に外資企業を明示的に除外する規定は確認できません。実務上の可否は、地方政府の運用と、対象となる設備の種類・金額基準によって決まります。したがって「使えない」と決めつける前に、拠点所在地の発改委・工信部門に確認する価値があります(この判断は推測を含みます)。

ただし、中国拠点での投資判断そのものが慎重になっている点は考慮が必要です。ジェトロの『2025年度 海外進出日系企業実態調査(中国編)』(回答791社、公表2026年3月13日)では、黒字比率が63.2%へ改善する一方で、事業拡大を予定する企業は21.3%と調査開始以来の最低水準でした。設備更新支援が使えたとしても、新規ラインではなく既存ラインの更新・省人化に用途が限られるのが実態でしょう。

その制約は、逆にMESの提案内容を明確にします。中国拠点で通る投資は、投資回収3年以内・部分導入・既存資産活用という条件を満たすものです。設備更新のタイミングで接続コストを下げ、更新した設備の範囲だけ実績収集を自動化する、という設計が最も稟議に乗りやすい形になります。

よくある質問

中国の設備更新政策は今後も続きますか

2024年に開始され、2025年、2026年と実施通知が公布されています。2026年分については超長期特別国債625億元の配分が明示されています。2027年以降については公表された計画が確認できないため、判断材料がありません。「十五五」(2026〜2030年)期の政策の重点は「AI+制造」専項行動に移っている可能性があります(推測)。

設備更新とMES導入は、どちらを先にやるべきですか

更新の計画が具体化しているなら、MESの構想を先に、実装を後にするのが合理的です。構想を先に置くことで、設備の発注仕様にデータ出力要件を織り込めます。逆にMESの実装を先行させると、更新前の古い設備に合わせた接続を作り込み、更新後に作り直すことになります。ただし設備更新の時期が未定の場合は、更新を待たずに手入力・半自動の実績収集から始めるほうが実利があります。

数値制御化率67.7%は日本より高いのですか

直接比較できる同一定義の日本側統計は確認できていません。中国側の指標は規模以上工業企業(一定規模以上の企業)を対象とした自己申告ベースの統計であり、日本の統計とは対象範囲も定義も異なります。この種の数字を国際比較に使うのは避けてください。参照する価値があるのは、絶対値ではなく「設計側のデジタル化が製造側より先行している」という構造のほうです。