「使われていない」は3つの症状で検出できる

現場端末が使われているかどうかは、アンケートを取る前にログで判定できます。次の3つが検出できたら、UIの設計に問題があると考えてください。

  1. 入力の時刻が偏っている。 実績入力の時刻分布がシフト終了前30分に集中している場合、作業のたびに入力するのではなく、紙やメモから後でまとめて転記しています。この状態では、実績データはリアルタイムの意思決定に使えません
  2. 既定値がそのまま確定されている割合が高い。 停止理由や不良区分で、リストの先頭または前回値がそのまま選ばれている割合が7割を超えるなら、選択肢が実態と合っていないか、選択操作が重すぎます
  3. 1件あたりの入力所要時間の分散が大きい。 同じ画面の入力に10秒で終わる人と2分かかる人がいる場合、画面の構造が「慣れた人だけが速く操作できる」形になっています

3つとも、稼働後すぐにログから取得できます。導入時にこの3指標を測る仕組みを組み込んでおくと、定着の議論が主観から外れます。定着そのものの進め方はチェンジマネジメントの記事で扱います。

現場端末の設計制約は、5つの物理条件で決まる

オフィス向けの画面設計をそのまま現場に持ち込むと、ほぼ確実に失敗します。理由は好みではなく、現場の物理条件です。

物理条件生じる制約設計への反映
手袋を着けている静電容量式タッチの精度が落ちる。細かいタップができないタップ対象は最低でも指1本分の面積を確保。隣接ボタンの間隔を広く取る
立位で、視距離が遠い小さい文字が読めない。スクロールに手が届きにくい本文の文字サイズを大きく取り、1画面で完結させる。スクロール前提の画面を作らない
照度が極端(直射日光/暗所)コントラストの低い配色が判読不能になる色だけで状態を区別しない。形・文字・位置を併用する
手が汚れている・両手がふさがるそもそも画面に触れられない場面があるスキャナ・フットスイッチ・音声など、タッチ以外の入力経路を1つ用意する
通信が不安定送信の途中で切れる。画面が固まるオフラインでの入力保持と、再接続時の自動再送。二重登録を防ぐ冪等性の設計

この5つは、画面デザインの前に確認する項目です。設置場所を実際に見ずに画面設計を始めたプロジェクトは、必ず作り直しになります。要件定義の段階で、対象工程の端末設置予定位置を全数まわり、上の5項目を現地で記録してください。

1作業あたりの操作回数に予算を設ける

現場UIの設計でもっとも効果があるのは、1作業あたりの操作回数に上限を設けることです。予算として先に決め、その中で画面を設計します。

紙運用と端末運用の操作回数を比較したバー図 現行(紙):1作業あたり 約2操作 紙を見る・書く 悪い設計:1作業あたり 8操作 ログイン メニュー 指図検索 工程選択 スクロール 数量入力 確認画面 確定 良い設計:1作業あたり 2操作(スキャン+確定) 指図をスキャン 完了を確定 ログイン・指図特定・工程特定・数量はスキャンと設備から自動取得 予算の目安:定型作業の実績入力は2〜3操作、例外処理(不良・停止)でも5操作以内
1作業あたりの操作回数の考え方。紙の作業より操作回数が増える設計は、その時点で定着しない。

予算を守るために削れるのは、次の3つです。

  • ログイン:ICカードやNFCで1操作にする。工程ごとの再ログインは原則なくす
  • 対象の特定:指図番号・品目・工程を人に選ばせず、バーコードやRFIDのスキャン1回で決める。方式の選び方はバーコード・RFID・画像認識の記事で扱います
  • 確認画面:取り消し可能な操作に確認画面を挟まない。取り消せない操作にだけ確認を入れる

逆に削ってはいけないのが、入力エラー時のリカバリ操作です。誤入力の取り消しが3操作以上かかると、現場は「間違えたくないから入力しない」という行動を取ります。

「入力させない」は最終手段ではなく第一手段

操作回数を減らす最短経路は、画面を工夫することではなく、そもそも人に入力させないことです。優先順位は次のとおりです。

  1. 設備・測定器から自動取得する。 生産数、良品数、停止の開始終了、測定値。ここが自動化できれば、入力の大半が消えます
  2. スキャンで決める。 指図、品目、ロット、作業者、設備。人が選ぶのではなく読ませます
  3. マスタから導出する。 標準時間、工程順、検査項目は入力ではなく参照です
  4. どうしても人の判断が必要なものだけを入力させる。 不良の現象、停止の理由、特記事項

Rockwellが17カ国1,560名を対象に行った調査(2026年7月公表)では、43%が自社のデータを効果的に活用できていないと認識しています。データが集まらない原因の一部は分析側ではなく、現場での入力設計にあります。人に打たせる項目が多いほど、入力の欠落と精度低下が起き、その先の分析が成立しなくなります。

端末形態は、作業者の移動量で選ぶ

端末の形態は好みではなく、作業者が1シフトでどれだけ移動するかで決まります。

形態向く条件注意点
据置端末(工程横に固定)作業者が持ち場から動かない。連続的に入力が発生する台数が工程数だけ必要。設置場所の確保と配線
タブレット(可搬)複数工程を1人が担当。図面や手順の閲覧が多い落下・防塵防水の等級、充電運用、置き場所の確保
ハンディ端末・スキャナ移動が多く、入力はスキャン中心画面が小さいため閲覧用途には不向き。用途を絞る
ウェアラブル(リング型スキャナ等)両手を使う作業で、スキャン頻度が高い対応する業務が限定的。導入前に実機での検証が必須

現実には複数形態の併用になります。その際に必ず決めておくのは、どの機能をどの形態で提供するかです。全機能を全端末に載せると、小さい画面に無理やり詰め込んだ画面ができあがります。据置端末には手順閲覧と例外処理、ハンディには実績とスキャンといった役割分担を、要件定義の段階で決めてください。手順の表示設計は電子作業手順書の記事、モバイル固有の実装はモバイル・ハンディ端末対応の記事で扱います。

稼働後3か月で必ず見直す前提で作る

現場UIは、一度で正解にたどり着きません。設計時点でどれだけ現場を観察しても、実際の運用でしか見つからない問題が必ず出ます。したがって、プロジェクト計画に稼働後3か月時点でのUI見直し工数をあらかじめ確保してください。

見直しの入力は、冒頭で挙げた3つの症状(入力時刻の偏り、既定値そのままの割合、所要時間の分散)と、実際の操作ログです。要望のヒアリングだけで見直すと、声の大きい人の意見に引きずられます。ログで問題箇所を特定し、その画面についてだけ現場に聞く、という順序が有効です。

この見直し工数を確保していないプロジェクトでは、「不便だが我慢して使う」状態が固定化します。そして数年後、次のシステム更新の検討時に「前のMESは現場に不評だった」という評価だけが残ります。

よくある質問

現場から「前の紙のほうが速かった」と言われます。どう対応すべきですか?

まずその主張が正しいかを実測してください。同じ作業を紙と端末の両方で行い、操作回数と所要時間を計測します。多くの場合、現場の指摘は正しく、端末のほうが遅くなっています。その場合は運用でカバーするのではなく、設計を直す対象です。逆に実測で端末のほうが速い場合、問題は速度ではなく習熟や画面の分かりにくさにあるため、対処法が変わります。いずれにせよ、実測なしに議論すると結論が出ません。

多言語対応が必要な現場では、UI設計で何を追加で考慮しますか?

文字数の増減に耐えるレイアウトが必要です。日本語で4文字のボタンラベルが、英語やポルトガル語では20文字を超えることがあります。固定幅のボタンに文字を詰め込む設計は、翻訳時に破綻します。加えて、色とアイコンの意味が文化圏で異なる場合があるため、状態表示は色だけに依存させないでください。数値と単位の表記形式(小数点、桁区切り、日付)も、言語ではなくロケール単位で切り替えられる設計にしておく必要があります。

画面設計をベンダーに任せてよいですか?

標準画面をそのまま使うこと自体は推奨されます(過度なカスタマイズは保守負担になります)。ただし、この記事で挙げた5つの物理条件と操作回数の予算は、発注側が要件として提示すべき項目です。ベンダーは自社製品の標準的な使い方は知っていますが、貴社の設置場所の照度や手袋の種類は知りません。要件定義書に「手袋着用時に操作可能であること」「定型作業の実績入力は3操作以内であること」と具体的に書いておくと、提案段階でこの制約が考慮されます。