分担の出発点は「設備マスタの正はどちらか」

MESとCMMS(Computerized Maintenance Management System)/EAM(Enterprise Asset Management)は、どちらも設備の一覧を持ちます。ここで正を決めないと、設備を1台入れ替えるたびに二重登録が発生し、やがて片方が更新されなくなります。

実務での原則は、設備の資産としての情報はCMMS/EAMが正、生産に使う単位としての情報はMESが正という分け方です。

情報正を持つ側補足
資産番号、取得年月、償却、設置場所、メーカー・型式CMMS/EAM会計・資産管理と接続する
保全計画、部品表、作業手順、点検周期CMMS/EAM保全業務の中核
生産リソースとしての単位(どの工程で使えるか、能力、段取り時間)MES同じ設備が複数の工程リソースになることもある
稼働・停止の実績、停止理由、生産数MES現場から自動または手動で収集する

注意すべきは、資産単位と生産リソース単位が1対1でないことです。1台の大型設備が3つの工程リソースとして扱われることもあれば、複数台をまとめて1リソースとして計画することもあります。連携キーを設計するときは、資産番号とリソースIDの対応表を独立して持つのが安全です。

設備の状態を4つに分け、引き渡しの瞬間を決める

生産と保全の衝突は、設備の状態遷移として整理すると解けます。

設備の状態遷移とMES・CMMSの責任区間を示す時系列図 MES の責任区間 作業手配・実績収集・停止理由の記録・作業者資格の判定 ① 稼働中 生産実績・稼働時間を累積 ② 段取り MESが管理 ③ 計画保全 CMMSの作業指示で実施 ① 稼働中 生産再開 ④ 故障停止・修理 MESが検知、CMMSが対応 CMMS/EAM の責任区間 保全計画・作業指示・部品在庫・保全履歴・コスト管理 保全へ引き渡す 生産へ返す 異常で強制引き渡し 稼働時間・生産数のカウンタ → ← 保全予定日・使用可否・残存リスク 引き渡しの瞬間に決めておく3点 (1) 誰が引き渡しを承認するか (2) 引き渡し中の設備をMESが計画対象から外せるか (3) 保全完了後に生産再開してよいと判定するのは誰か(試運転・初品検査の要否を含む)
設備の状態と、それぞれの区間で責任を持つシステム。生産から保全へ、保全から生産へ設備を引き渡す2つの瞬間が、MESとCMMSの連携点になる。稼働時間・生産数のカウンタはMESからCMMSへ、保全予定と使用可否はCMMSからMESへ流れる。

図の縦の破線が、連携設計の核心です。「保全へ引き渡す」瞬間に、MESはその設備を計画対象から外し、進行中の指図を別設備へ振り替えるか待機させる必要があります。この処理がないと、CMMSの保全計画は立っているのに現場は生産を続け、保全が先延ばしになります。実際、保全計画の未達が慢性化している工場では、ほぼ例外なくこの引き渡しがシステム化されていません。

稼働カウンタをどう渡すか

CMMSの時間基準保全(TBM)は、稼働時間・生産数・サイクル数などのカウンタを基準に次の保全時期を決めます。このカウンタの供給元はMESです。

設計時に決めるべきは次の3点です。

  1. どのカウンタを渡すか:暦日、稼働時間、生産数、特定動作回数(プレスのショット数、ロボットの動作回数)のうち、保全周期の根拠になっているもの
  2. どの粒度で渡すか:日次の累積値で足りる場合がほとんどです。リアルタイムに渡す必要があるのは、閾値到達で即座に停止させる要件がある場合に限られます
  3. リセットのルール:部品交換時にカウンタを0に戻すのはCMMS側の操作です。MES側の累積値と混同しないよう、MESは「累積値」、CMMSは「前回保全からの差分」を管理する構造にしてください

ダウンタイムの記録そのものの設計はダウンタイムをMESでどう減らすかで扱っています。停止理由コードをCMMSの故障モードと対応づけられる体系にしておくと、保全側の分析がそのまま使えます。

MES内蔵の保全機能で足りる条件

MES製品の多くは簡易な保全管理機能を持ちます。次の条件をすべて満たすなら、CMMSを別途導入せずに済みます。

  • 保全の対象が生産設備に限られる(建屋、ユーティリティ、車両などを含まない)
  • 保全部品の在庫管理を別システム(ERP等)で行っている、または点数が少ない
  • 保全コストを設備別に集計して資産管理と接続する要求がない
  • 外部委託の保全業者との作業指示・報告のやり取りを紙やメールで運用できる

逆に、資産管理・部品在庫・コスト按分のいずれかが要件に入った時点で、CMMS/EAMが必要になります。MESの保全機能を無理に拡張すると、保全担当者にとって使いにくい画面を作り込むことになり、結局Excelに戻ります。

予知保全を足すときの層構成

振動・電流・温度などから故障の兆候を検知する予知保全(PdM)を追加する場合、MESとCMMSの2層に、さらに分析層を足す構成になります。

  • 収集層:センサとエッジ。高頻度データはヒストリアンやUNSに置き、MESには入れません(ヒストリアンとMESの役割分担
  • 分析層:異常検知モデル。「この設備は今後2週間以内に劣化の兆候がある」という判定を出します
  • 実行層:判定を受けてCMMSが保全作業指示を起こし、MESが設備の引き渡しを計画に反映します

2026年時点では、この分析層を独立したレイヤーとして構成する例が増えています。Siemensは2026年6月4日、HighByte Intelligence Hubを Industrial Edge Marketplace で提供開始し、その事例としてブラジルのVivix Vidros Planosが1.2億ドル規模のガラス炉に予知保全を構築したことが紹介されました。注目すべきは、予知保全の分析をMESの中に作り込むのではなく、データ統合層と分析層を切り出す構成が採られている点です。

よくある質問

CMMSはERPのプラントメンテナンス機能で代替できますか?

できる場合があります。大手ERPのプラントメンテナンス機能は、資産管理・作業指示・部品在庫・コスト按分を一通り備えており、資産管理との接続を重視するなら有力な選択肢です。一方、現場の保全担当者が日々使う画面としては、専用CMMSのほうがモバイル対応や点検チェックリストの使い勝手で優ることが多いのも事実です。判断としては、保全担当者が1日に何回システムに触れるかを目安にしてください。日に数回以上触れるなら、使い勝手が定着率を左右します。

設備が故障したとき、MESとCMMSのどちらに最初に入力すべきですか?

MESです。故障を最初に認識するのは現場の作業者であり、その時点でまず必要なのは生産をどうするか(別設備への振り替え、待機)の判断だからです。MESで停止イベントを記録し、その情報をCMMSへ渡して保全作業指示を起票する流れが自然です。逆にすると、生産側の記録が抜けたまま保全記録だけが残り、ダウンタイム分析ができなくなります。アンドンや通知の設計とあわせてアンドンと異常通知の設計を検討してください。

保全履歴と生産実績を突き合わせる意味はありますか?

あります。最も価値が出るのは、品質不良と保全履歴の突き合わせです。「特定の保全作業の直後に不良率が上がる」「部品交換から一定期間を過ぎると寸法がばらつく」といった関係は、両方のデータを設備IDと時刻で結合しないと見えません。この分析を可能にするために必要なのは、MESとCMMSで設備IDが一致していることと、保全作業の開始・終了時刻が分単位で記録されていることの2点だけです。分析基盤を作る前に、この2点が満たせているかを確認してください。